上野原通信 No.288
チャツボミゴケ(ツボミゴケ科 Jungermannia vulcanicola)は、強酸性で生息することができる苔類です。草津白根山の東麓に芳ヶ平湿地群が広がっています。その中に元山川が流れていますが、源流部にチャツボミゴケの群生地があり、公園として整備されています。
当地は、古くから穴地獄と呼ばれていました。白根火山によって深いくぼみができていましたが、そのくぼみに動物が落ちると、強酸性の温泉水(pH2.5 20℃)によって、抜け出せずに死んでしまうといういわれがありました。
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ャツボミゴケと鉄バクテリアの作用により、鉄酸化物が沈着して、褐鉄鉱を産生していきます。戦前の鉄が不足していた時代1943年から1965年まで群馬鉄山として褐鉄鉱の露天掘り採掘が行われていました。2017年「六合(くに)チャツボミゴケ生物群集の鉄鉱生成地」として、国の天然記念物に指定されました。生物由来の鉱物資源もたくさん知られていますが、現在も産生が続いている場所を現認できるところは珍しいです。生態系の中の相互作用と物質循環は複雑なものがあり、バランスが崩れると、不可逆的な変化が起こり得ます。生物が存在できる自然環境にもっと目を配るべきだと考える今日このごろです。
2024.10.16 川田 好博