上野原通信 No.282
ヤマブキ(バラ科 Kerria japonica)は、東アジアに自生し、低山の渓流沿いや山の斜面、やや湿り気のある明るい林の木陰などに群生しています。花弁は5枚です。
八重咲きのヤエヤマブキは園芸品種で、雌しべが退化し、雄しべが多数の花弁に変化し、実をつけません。「七重八重花はさけども山吹の実の一つだになきぞあやしき(かなしき)」兼明親王(後拾遺和歌集)の古歌は、太田道灌の故事で有名です。若き日の太田道灌が蓑を借りるべくある小屋に入ったところ、若い女が何も言わず山吹の花一枝を差し出したので、道灌は怒って帰宅しました。後に古歌を知らされ、無学を恥じたという話が『常山紀談』(江戸中期の逸話集)に載っています。「実の」と「蓑」を掛けています。この故事を示したときは、ヤマブキは結実するので、ヤエヤマブキでなくてはなりません。
日本人と自然との関わりは深いものがあります。四季が明確に認識できる地理的な影響がそうした民族性を作り出してきたのでしょう。微妙なバランスの上に成立している生態系に対する深い認識を持たなければ、私たちの生活圏が維持できない時代になってきました。日本人の自然観を再認識すべき時代かもしれません。
2024.4.16 川田 好博