上野原通信 No.292
シュロは、シュロ属の植物の総称とすることもありますが、シュロ(ヤシ科 Trachycarpus fortunei)という種を表すこともあります。この場合は、ワジュロの別名もあります。原産は、中国湖北省からミャンマー北部です。日本には、平安時代に中国亜熱帯地方から九州地方に持ち込まれ、定着した外来種です。日本に産するヤシ科植物の中でも耐寒性が強いため、本州(東北南部以南)の暖地で栽培されていて、野生化しています。ヤシ科の植物の中でほぼ唯一、日本に自生する種です。
温暖で、排水良好な土地を好むため、段丘崖や丘陵の法面などでよく見られます。大型の鳥類によって種が頒布され、分布を広げています。乾湿、陰陽の土地条件を選ばず、耐潮性も併せ持つ強健な樹種です。
地球温暖化で冬の寒さが厳しくなくなり、本州でも屋外で育ちやすくなってきています。国立科学博物館附属自然教育園(東京都)では1965年に数本だったシュロが2010年に2585本へ増えたと報告されています。
植生の変化が急激に起きています。気温の上昇だけではなく、耕作放棄地の拡大、森林の状況の変化など、さまざまな要因で、変わりつつある日本です。生態系の保全のためには、正しい認識を広め、叡智を注ぐことが必要な時代です。
2025.2.11 川田 好博